当社の商品の開発の発端や特徴、製法の特徴などをご紹介していこうと思います。
商品の特徴(0年物)(2000年9月25日)
開発の発端(1999年頃)
開発途中(2000年2月〜3月)
商品化(2000年9月25日)
仕込み水の代りに日本酒を使って仕込んだお酒で、強い甘みと、それにバランスする酸味が特徴のお酒です。デザート用、寝酒用など、少しずつ飲んでください。
本来ならば数年熟成してから発売すべきところですが、熟成の香りがない状態のお酒もなかなかおいしいですので、とにかく濃いものがお好きな方はぜひ一度お試しください。
牧水「極」も出来あがり、1999年の酒蔵開放の試飲でも、かなり評判が良かった。しかし、酸味の効いた酒が一般的な尺度で「濃い」かといえば、ちょっとはずれてしまっている。もう少し甘みが欲しい、と考え、かねてから酒造講本などで存在だけは知っていた「貴醸酒」なるものに挑戦してみようと考えた(まったく、おやじさん(杜氏)ごめんなさいの世界ですね)。
貴醸酒というのは、仕込み水の代りに日本酒を使って仕込んだ酒で、最初からアルコール分がある程度あるため、醗酵がゆっくり進み、その間に米のでんぷんの糖化が進むので、極めて甘い酒ができる、という手法である。国税庁醸造研究所で開発、特許となった製法であるが、特許の権利は既に消滅しているので、自由に造ることが出来る。
研究のために、以前から貯め込んでいた、トカイワイン、アイスワインの封を切る事にした。トカイは1985年、まだ学生だった頃、研究室で無理やり行かされたブタペストで買って来たもの。アイスワインは3年前、友人のアメリカ土産で貰ったもの。こんなこともあろうかと、大事にしまっておいたものである(半分嘘)。その他、貴腐ワイン、貴醸酒も幾つか集めて若干研究してみた(飲み較べた、といった方が正確か?)
やはり、甘い、アイスワインはとてつもなく甘かった。貴醸酒も甘い。一番好みに合ったのはトカイだった。
自分の好みはさておき、30年も後発で貴醸酒を発売するからには、何か特徴を出さなければならない。貴醸酒を発売されているところは、熟成によって複雑な味を付け加えて、非常に良い酒に仕上げている。将来的には熟成をするにしても、ベースとなる新酒にある程度(熟成に向いた)特徴がなければ、だめだろう。
そこで、やはり、酸味の強い貴醸酒を造ることにした。酸が強いほど、熟成による変化が面白いと考えたのである(こればっかり)。幸いにして、「極」という酸の高いお酒があるので、これを使い、山廃酒母で仕込んで見よう、というのが貴醸酒開発の始めです。
初めての試みなので、まず当社の酒造顧問技師である元鑑定官の内山先生に相談し、広島の榎酒造の榎社長、東京の豊島屋の田中副社長を紹介していただいて、色々と教えていただいた。
この酒も酒母四段で仕込もうと思ったが、四段の酒母の量が少なすぎるので、これは断念した。
田中副社長は、「温度さえ下げなければ大丈夫」と教えて下さったが、最初の内醗酵が急いでいる様子だったので、温度をちょっとおさえ気味にしてしまったら、なかなかアルコールが出て来ない。醗酵が止まった様子もないのに予定では3月20日の酒蔵開放には試飲してもらうはずだったのが、まだ上槽にならない。最終的に3月30日に上槽した。醪日数40日余り。さぞかし杜氏も気に病んだことと思う。
出来あがった酒は、アルコールが13%しか出ていないが、その分糖分が多く出て、日本酒度-60、酸度5.9のとても濃い酒ができた。非常に甘いのだが、山廃のおだやかな酸がしっかり効いているのでバランス良くおいしい酒に仕上がったと思う。将来的に考えても、このアルコール度数13%というのは正解だったのではないだろうか。
しかし、原価が高い酒である。通常の純米酒の2/3程度の量しか酒ができず、仕込み水代りに使った酒の量がそのうちの半分を占めるので、同じ米の量からできる酒の量が、通常の純米酒の1/3という、とてつもなくコストのかかる酒である。
貴醸酒は、本来ならば5年から10年ほど熟成させて、琥珀色に輝いているものがおいしいという。確かにそうなると、味の複雑さからいっても、貴腐ワインに匹敵するものになるであろう。事実、榎酒造の貴醸酒はニューヨークタイムズにも取り上げられるほどの絶品である。
その反面、日本酒の熟成した香りが嫌いな人も多いのではないだろうか。そう考えて、幾つかの試飲会で試飲してもらったら、非常に好評だったので、とりあえず貴醸酒の販売実績を作る上でも、熟成前の貴醸酒を商品化する事にした。