page_007
1995年1月
一つは酒造従業員の確保の問題です。酒造従業員のチーフであり、酒造りの専門家である人を杜氏と呼びます。昔は、杜氏が一冬の間一緒に働く人々を地元で集めてチームを組んで働きに来ていました。杜氏の出身地は、雪の深い北陸から東北地方に多かったのです。酒造りは、豪雪に閉じこめられる地方の若い人たちの、秋の収穫が終わってからの冬期の専門の仕事として成立してきたものと思います。雪の深い長野県の一部地方でも、大町と富山県の境にある小谷(おたり)地方では、昔から小谷杜氏と言われる人たちがいるのです。
当社の杜氏は徳川末期の創業以来、越後出身の、いわゆる越後杜氏です。現在の中澤杜氏も、新潟県小国町出身で、新潟県出身の従業員と、この地元出身の従業員の双方の協力の下に「御園竹」の香りと味を伝えるべく努力しています。
寒造りのもう一つの理由は、寒(かん)の一番寒い時は酒造りには大変良い時であるということです。これだけでは理由になていないので、もう少し詳しく説明しましょう。
お酒は、麹菌や清酒酵母といった、いわゆる細菌の力によって出来上がります。そして、逆に、お酒を仕込むのに一番心配なのも細菌です。空気中には、酸素や窒素の他に、細かい細菌が飛んでいます。その中の良い細菌のおかげで美味しいお酒や、味噌、醤油ができますが、反対に、せっかくのものを腐らせてしまう菌もたくさんいます。それを私たちは敵対視して雑菌というのです。
お酒造りにもその雑菌が天敵です。その雑菌が一番少なくなるのが冬の寒い時期です。冬に品物が腐らないのはちょうど菌が繁殖できない気候なのだからです。そこで、うまく温度などを調整して、必要な菌だけを増やす技術が古来から伝わる日本酒の製造方法なのです。弊社に伝わる「生もと造り」もそういった技術です。
それでは今の冬と同じ温度の冷蔵庫を作って酒を造れば良いではないか、という意見もあります。そのような試みも各所で行われ、一年中お酒を造る四季醸造とか、夏の間だけ酒造りを休む三季醸造といった方法をとる蔵も増えてきているようです。今後は酒造従業員の確保の点からいうと、三季醸造の蔵が増えてくることでしょう。しかし、日本古来の季節感が無くなってしまうのも寂しい思いがします。
平成六年は、米不足に始まり、酒税の値上げ、酷暑、価格破壊の進行等、酒造メーカーにとっても、小売店の皆様にとっても、非常に大変な年でした。今後もしばらくの間は厳しい状況が続く様に思えます。この中で当社が生き残るには、「質の高い製品を消費者に提供すること」であると考えており、現在も酒の仕込み、商品の製造を全社一丸となって行っています。今後も、当社の製品に関すること、販売・営業面でのことなど、お気づきの点があれば、担当営業を通して、もしくは直接でも結構ですので、ご意見をお聞かせくださるようお願い申しあげます。
著作・制作: 武重本家酒造株式会社
Copyright (c) 1994-2000 Takeshige Honke Shuzou
Corp