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1996年4月
ちょっと時期が早いがきっかけとなる出来事があったので、今月は生酒の話をしよう。
近頃、倉庫の整理をしていた若い従業員が「変な形のビンが出てきたが、捨てても良いか」というので見にいくと、それは二十年以上前に発売していた冷用酒「クール信州」のビンであった。
「クール信州」は佐久の酒造メーカーが共同で開発した冷用酒で、昭和四十年代後半に数年間出荷した。記録が残っていないので、どの様な酒を詰めていたのか分からなくなってしまったが、確か少し甘めの酒を冷用酒として出荷していた様な気がする。
この酒は、当時としては斬新な形のビン(高いビンだった)を使い、ポスターも作った。浅間山の連続噴火があった頃だったが、柴崎紅葉という写真家が撮影した雪の残った浅間山の写真を使った。非常にきれいな写真だったので、記憶に残っている方もいるのではないだろうか。
これらは全て、夏場の清酒の需要を喚起しようということで始めたものであった。当時は、夏場でも清酒を飲む人が多かったが、それでも夏場の清酒の販売数量の落ち込みは深刻だった。現在は夏場はビールに押されて清酒の立場が無い。「生酒」のおかげでメーカーは息をしている状態である。結果的には定着しなかったが、私は「クール信州」などの商品開発の努力が現在の「生酒」に生きていると考えている。
さて、生酒が浸透して来たとはいえ、いまでも「冷酒」と呼ぶ消費者がいるのは少々残念なことである。メーカーとしては、「冷酒」と「生酒」は全く別のものであると言いたいのだ。「冷酒」は普通の酒を、冷やして飲んでもうまい酒に調合したものである。これに対して「生酒」は軽い呑み口の酒とするために、搾った酒を冷蔵貯蔵して熟成を抑えている。冷蔵保存の技術、濾過の技術など、工業技術が進歩したおかげで生酒を世に出すことができるようになったのである。
また商品の管理の点からもこの二つは全く異なる。冷酒は常温で保存しても品質にそれほど変化はないが、生酒は冷蔵保存しないと数日で品質が劣化してしまう。生酒は生き物であるから、それなりの管理が必要となる。
消費者にとってはどちらも「冷やして飲む酒」かもしれないが、生酒を旨い状態で飲んでもらうために、生酒の季節が始まる前に、店での保存方法、料飲店での保存方法をもう一度確認してください。また、消費者に生酒の良さを認識してもらうための消費者教育の方法なども、当社でも考えるが、それぞれのお店でも独自に考えて、消費者に伝えていただけることをお願いしたい。
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