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1997年1月
それぞれの人の信じる宗教によって事情は異なろうが、日本人の多くは、最初の一杯は冷やの日本酒を御神酒としていただき、その後はそれぞれの嗜好に従って燗酒なり焼酎なりビールなりに移っていくのであろう。勿論私としては日本酒を呑んでいただきたいのだが。
さて、正月の酒と言えば、長野県地方ではあまり馴染みがないが、関東地方の特に東京を中心として、また関西地方などでも馴染みの深い「お屠蘇(おとそ)」という酒がある。元旦に呑むと一年中の邪気を避ける事が出来るという飲み物である。
オトソという言葉を少々調べてみた。これが大変に古い歴史を持っているもので、日本の歴史の中で一番古い時代といわれる、かの「卑弥呼(ヒミコ)」の時代、中国で言えば三国志時代、今から二千年程前に、魏の国の名医と呼ばれた華陀(カダ)という人が、「屠蘇散」というものを初めて作り、曹の武帝に献上した事から始まったと事を知った。
「屠」とは殺すという意味、「蘇」とは病を起こす鬼の名前で、要約すると細菌を殺すという意味らしい。
日本の古い百科事典の「和漢三才図絵」や古い医学書の「医心方」にもそれぞれ詳しくその製法が記されている。その書を見ると、薬草の山椒、防風、桔梗、白求などを細かく刻んで、大晦日の夕方に酒の中に浸しておくと元旦の朝に出来上がるというのである。私も一度試してみたが、一度だけで良い。あまり旨いものではない。
原料はそれぞれ漢方薬として良く使われるもので、健胃の働きを持つもの、風邪に効くもの、去痰作用をもつもの等の集まったもので、いろいろの「はやり病」に効果があるという事で広まったものであろう。
正月の一日に薬酒を呑むという事で、予防医学的な効果が期待されるのである。しかし現在の医学の下では、お酒を健康的に楽しむ、すなわち、適量をゆっくりと気持ちよく呑む事の方がもっと効果がある事であろう。
話は逸れるが、健康的に呑むのであれば、やはり燗酒をお薦めしたい。さらに「ぐい呑」ではなく小さな杯でちびりちびりと呑むのが良い。燗酒をゆっくり飲むとアルコールが体の中に染み込んでいくのが自分で分かるから飲み過ぎない。小さい杯ならば一口に飲めるから酒も冷えない。杯を重ねてもそれほどの量は呑まない。ところがぐい呑と冷や酒ならば、三杯も呑めば一合は呑んでしまう。しかもなかなか酔いが回らないので、結局飲み過ぎてしまう。
正月を機に、健康的な飲み方を研究されてはどうだろうか。そして、末永く酒とつきあって欲しい。今年も健康的に「御園竹」をたしなむ事をお薦めして、新年のご挨拶としたい。
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