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酒造好適米

1997年8月


夏の時期は酒造りが休みであるため、御園竹便りの題材に困ってしまう。この時期一番気になるのは、出来上がった酒の貯蔵・熟成の状況と、今年の米の出来具合である。

田植えも終わった六月中は、雨も少なく真夏かと思う日が続いた。梅雨もすぎた現在、田は青々として、生き生きとした稲の生育が見られる今日この頃である。今年の夏は日照は十分であるものの、夜中の気温が上がらず、もしかすると稲の生育が悪いかもしれないといった心配もあるが、杞憂であって欲しい。造り酒屋は農家同様、稲の作柄の予想に一喜一憂しているのである。

酒米としては、前にも書いた様に、全国的には「山田錦」が最も有名で、長野県では「たかね錦」、「美山錦」、新潟県などでは「五百万石」といったところが有名なものである。これらの、酒造りに適している品種を酒造好適米というが、その特徴は「大粒であって心白の大きい米」という所にある。

米の重量は、玄米千粒の重さ(千粒重と言う)が普通食べている米は二十二グラム程度であるのに対して、大粒米は千粒重で二十六グラム以上ある米のことを言う。実際見たところ、かなり大きい感じがする。

また、普通の米は白米の中心部まで透明な感じがするが、中心部に澱粉質が固まり、その部分が白く濁って不透明になった部分のことを心白と言い、この心白米が多い米が酒造りに向いているのである。

このような品種の米は、一般的に米の一粒一粒が大きいので、種が頭でっかちで、背丈も長いといった遺伝的性質を持っている。そのため、台風や長雨で倒伏しやすいので、農家は丈夫な茎を育てることに全力を注がなければならない。だから肥料をやりすぎない事が重要なのだそうである。酒米にとっては、肥料はそれほど重要でなく、水と太陽と風の次あたりといったところであろうか。

それ故、大気が汚染されていないところで、紫外線を十分浴びて生育できる土地こそ良い酒米の産地とも言えるのである。その点当地方などは、恵まれた酒米の産地と言えるであろう。とは言うものの、当地方は酒米だけでなく、普通の飯米も全国でも指折りの美味しい米ができる地域である。そのため、農家の収入という点では酒米を作るより飯米を作った方が良い場合もあろう。しかし、造り酒屋の身勝手な考えではあるが、今後地域の特色を出す農業という点では、酒米作りというのもおもしろいのではないだろうか。

現在、長野県の農事試験場で、美山錦に継ぐ、新しい酒米が開発されている。名前を聞いた人もいると思うが「ひとごごち」という米である。まだ種籾は自由には手に入らないので栽培はできないが、当社では昨年の作りにこの米を使っての試験醸造を行ってみたがなかなかに良い酒ができた。皆様の周りで、こういった酒米を作ってみたいという人はいないだろうか。地元の米で作った農村歳時記の酒を渡すときに、話題にしていただければ幸いである。余談であるが、この試験醸造をした酒は、米以外にも特徴がある。秋に発売するので、ご期待いただきたい。

毎年この時期の御園竹便りで書いているが、春に出来た酒がこれから夏の熟成期間に入る。今年も七月二十五日に、貯蔵された酒のタンク全部を検査した。どのタンクの酒の熟成も程良く、あと一月ほどの夏を越し、秋風が吹く頃には、いつもの御園竹の味が出来上るであろうことをご報告申し上げる。

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