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上槽(じょうそう)

1998年3月


 

今年の酒造りも山を越えた。先日米蒸しが終わった甑倒しのお祝いを済ませたので、あとは発酵が終わった醪(もろみ)を順々に搾っていく上槽が造りの主な作業である。

当社では最盛期には毎日約三トン弱の米を仕込んでいる。この酒が出来上がると大体八〜九千リットルの醪となる。この量を毎日搾るのである。

以前の御園竹便りでもご紹介したが、昔は酒を搾るには、醪を数リットルずつ酒袋という袋に入れ、槽(ふね)と呼ばれる木製の大きな入れ物に並べて上から重量をかけて搾るという非常に手間がかかる作業であった。今は藪田式連続圧搾機(通称「ヤブタ」)により、ほとんど自動で酒を搾ることができる。人手がかかるのは、粕を機械からはずすときだけである。

では、全ての酒をヤブタで搾っているかというとそうではない。大吟醸だけは吟醸専用の槽で搾っている。キツネと呼ぶ縁のとがった小さなおけに醪を数リットルずつ取り、それを酒袋に入れ、槽の中に隙間無く何段にも並べていく。酒袋を並べている間にも槽の下の口(ふな口)からは袋で濾された酒がチョロチョロと流れ出る。自分自身の重みで酒袋から酒がしみ出してくるのである。

経験的に、圧力をかけずに醪の重さだけでしみ出してくる酒の方が、味や香りが良いようである。最初から二〜三百リットル程度の間は、順に数十リットルずつ一升瓶や斗瓶に取り、取った順番に番号を振っておく。これは品評会用に使う分である。この部分を番号順にきき酒をしてみると、最初のほうが味が軽く後になるほど段々と味が付いてくるようである。こう書くとかなり質が違うように思われるだろうが、実際の質の差は極わずかである。しかしその差が品評会での優劣につながるのである。

品評会への出品は時期(春か秋か)によって、またその年の酒の出来具合や出品時点での熟成度合、その年の審査の傾向などに合わせて、出品ごとにきき酒をしてどの酒を出すかを決定するのである。当社では大吟醸を数本仕込むので、仕込み毎に酒の出来も違うので出品のときのきき酒には特に気を使う。

余談であるが、当社の「酔牧水」はこの出品用に取った酒で出品に使わなかった残りの中から選んで出荷している。出品酒と同じ物がそのまま商品になっているのである。

さて、出品用の酒を取った後は、槽の上からジャッキで圧力を徐々にかけて搾っていく。大体一昼夜で搾り終わる。その後槽の中からペチャンコになった酒袋を取り出し中から粕を取り出す。

これが当社の吟醸の搾りであるが、最近は「吊し」という形でも吟醸を搾っている。この方式は木綿の袋(自社で縫った物)に醪を入れ、タンクの中に吊して醪の自重だけでしみ出した酒がポタポタと垂れてくるのを待つ方式である。この方式で搾った酒は幾分軽く雑味が少ないようである。「吊し」は槽で搾るのに較べて手間がかかるので今のところは出品酒に使う分しか搾っていない。

手間をかけて搾られた吟醸酒は、澱が沈むのを待ってから、一升瓶に詰めてそのまま火入れ、冷却をして、冷蔵庫の中で0℃程度で低温熟成させるのである。

三月に入ると大吟醸の上槽が始まる。今年も四月には「大吟醸無濾過生酒」を出荷する予定である。楽しみに待っていただきたい。(@)

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