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1998年8月
当社では三種類の水を使っている。立科町の上水道と二つの井戸の水である。
立科町の上水道は、そのまま仕込み水として使えるほど良い水質の水である。しかし当社には非常に良い井戸があること、また上水道はかなり水圧が高いということもあって、上水道はもっぱら洗い水として使用している。
二つの井戸のうち、一つは深井戸と呼ぶ井戸で、二十五メートル以上の深さから水を汲み上げている。昔はこの井戸の水を仕込み水として使用していた。最近まで、洗い水などに便利に使っていたが、最近はもっぱら社長宅の飲料水に使っている。お茶は上水道よりこの井戸の水で入れたほうがずっとおいしいような気がしている。
もう一つが、酒の仕込みに使っている井戸で、会社の東に位置する山(というより丘)の中腹にある井戸である。井戸の底の方に取水口を付け、そこからパイプで会社まで水を引いてきている。この井戸の水面は、会社の工場の地面より一メートルほど高い。昔は井戸から引いてきたパイプの口から水が自然に出てきていたので、それを貯めていろいろに使用していた。現在は使用する水の量が増えてきたので、ポンプを使って水をいったん大きなコンクリート製のタンクに蓄え、このタンクからの配管で、工場の各所で井戸水が使える様になっている。
余談であるが、この井戸の水量はかなり豊富であることは昔から分かっていたが、今年の春にちょっとした実験をしてみた。火入れ後のタンクの冷却につかってみたのである。出来上がった酒の火入れをすると、酒のタンクは六十度以上の温度になる。今までは自然に冷えるに任せていたが、今年はタンクに水をかけて強制的に冷却をしたのである。これは酒質の向上のための実験でもあった。
六十度以上にもなった大きなタンクを冷やすには大量に水が必要である。数日間かけて数十本のタンクを順々に火入れをするわけであるが、この間井戸水はほとんど流しっぱなしであった。このとき一日に五十トン以上の水を使ったが、井戸の水が涸れることはなかった。
話がそれてしまったが、当社では、この井戸水を仕込み水に使っている。もともと不純物が非常に少ない水であるが、今年はこの水を更に濾過して使ってみた。目の詰んだ濾紙の様なもので濾過したものと思っていただければ良いであろう。濾過した水は、杜氏曰く「照りが違う」ものであった。仕込み水は前日に専用のタンクに貯え、冷却器で冷やして置く(井戸水は真冬でもそのままでは仕込み水として使うには温度が高すぎるのである)。このタンクを覗いてみると、白い琺瑯のタンクが青く見えるほど澄んだ水であった。
仕込み水が澄んでいることが酒の質にどう影響するかはまだ分からない。先に書いた火入れ後の冷却に関しても(当社にとっては)未知の分野である。最終的な判断は、今後出荷される酒を消費者の評価を待つしかない。しかし、酒質の向上のために、さまざまな努力をしていることを分かっていただければ幸いである。
今年も七月末に初呑切を行った。どのタンクも順調に熟成を重ねている。特に普通酒(御園竹)のタンクの味は見事なまでに均一に仕上がっていたことをご報告して今月の御園竹便りとさせていただく。
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