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新酒

1998年12月


今年も酒造りが始まった。例年の如く新潟県から中澤杜氏を陣頭に酒造従業員がやってきた。今年は新潟から来た泊まり込みの者が五名と当社の社員が三名、最盛期には地元の季節従業員を合わせて、十二名が酒造りに携わる予定である。

同じ規模の製造を行っている他社と較べると、当社の酒造従業員の数は多めである。当社の特徴であるきもと造り(山廃造り)を行うために、どうしても人手が必要であるというのが一つの理由。もう一つは、将来のためである。

杜氏も六十歳をすぎ、新潟県からの酒造従業員も若い人はいない。日本中が豊かになったため、泊まり込みの季節労働の必要が無くなったのだ。将来は社員を含めた地元の人達の手で酒を造っていかなければならない。今ある技術を継承するためにも、多少人数が多めであっても、社員に酒造りを覚えてもらう、そんなことを考えている。

とはいえ、当分の間は今まで通り新潟からの人達が中心になって酒を造る。御園竹の味が変わるようなことは絶対にしない。今は、味を変えないための準備期間なのである。

十一月に杜氏がやってきて、今年は社員全員で蔵の掃除を手伝った。当日は配達等でご迷惑をかけたと思うが、そのおかげで今年は例年より早めに新酒ができそうである。

新酒ができると、当社の門のひときわ大きな酒林が新しくなる。私はその緑を目にして冬が本番になった、と毎年感じている。

「酒は飲みたし 銭はなし

      酒の林を見て通る」

酒林(さかばやし)は、杉の葉を束ねて丸く刈り込んで作られたもので、酒に関係する商売の看板である。毎年新酒のできる年末になると、新しい酒林を軒下につるす。杉の葉も、つるしたばかりの時は目も覚めるような緑で、時間がたつとだんだんと茶色くなってくる。これがまた緑になると、新しい酒が出来たことが遠目にも分かる。酒屋ならではの季節感である。

実は、当社はきもと造り以外にも伝統技術を保存している。酒林の作り方である。酒林の作り方にもいろいろあって、竹で編んだ丸い籠に杉の葉を刺して作る方法や、最近では発泡スチロールに杉の葉を刺して作る方法などがあるが、当社の作り方はそれとは異なり、昔ながらの方法で杉の葉だけで作っている。この作り方は、常務がインターネットのホームページに写真入りで詳しく説明しているので、そちらをご覧になるか、当社までお問い合わせいただきたい。

この作り方も今ではすたれてきているようで、十年ほど前であろうか、日本酒造組合中央会(蔵元の全国組織)が取材に来て、「酒林の作り方」というテキストを作ったほどである。この酒林の作り方も後世に残していきたいものと考えている。

世の中が何となく元気がなく、酒飲みまで元気を無くしてしまったのでは、と思えるほど日本酒の消費量が落ち込んでいる。そんな時代でも、コストがかかっても、味を守り、伝統を将来に伝える努力は惜しまないつもりである。どうか当社の酒を、大事に売っていただきたい。今年もそれに値する酒を造るよう、酒造従業員だけでなく、全社員一丸となって努力する所存である。

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