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2000年2月
厳寒の季節、一月の下旬から二月にかけてが当社の酒造りの最盛期である。大吟醸をはじめ、純米酒、本醸造酒など、上級酒はすべてこの時期に仕込まれる。また、正月明けに仕込まれた普通酒も、この時期に搾られ、新酒が続々と出来上がってくる時期である。
昔は、二月から三月にかけて、「古酒」を予約される方が結構あった。酒販店の皆様の中には覚えておられる方も多いであろう。この「古酒」というのは、数年間貯蔵した酒のことではなく、前年に醸造した酒のことである。二月から三月が古酒と新酒の切り替わりの時期で、新酒の味になじめない人が、できるだけ古酒を確保しておきたい、という事であったのだ。
昔は、新酒には特有の香りがあって、それを我々は「麹鼻(こうじばな)」と呼んでいた。香りを表現するのは難しいが、「生酒」を飲むときにふわっと香る麹の香りのきついもの、といったら良いのであろうか。この香りは、ある程度酒が熟成すると消えてしまうのだが、新酒のうちはかなり鼻につく香りであった。この香りを消すために、搾ってすぐに出荷する酒は、火入れをしたあと保温して、なんとか熟成を早めようと工夫をしたものだが、なかなかこの香りは消えなかった。
しかし、最近は新酒でも「麹鼻」が強く香る酒は皆無である。古酒と新酒の切り替わり時期がずれてきて、新酒をすぐに出荷するという事がなくなったせいもあるが、気がついたら麹鼻が消えていたために、なぜ麹鼻がなくなってしまったのか、原因がわからない。たぶん、米の精白が昔に比べて格段に良くなり、また麹種の改良も進んだために、くせの無い「良い」麹ができるようになったためではないかと考えている。できれば麹鼻を再現してみたいとは思っている。しかし、あまり好ましい香りではないという記憶があるので、再現することが良いかどうか悩むところである。
先にも触れたが、最近は古酒と新酒の切り替わりの時期は十月過ぎである。一つにはこのところの日本酒の需要の低迷で在庫が増えたせいもあるが、やはり熟成して旨みののった酒を呑んでいただきたいという考えがあってのことである。また酒の品質が良くなったことで、長期に貯蔵しておいても酒が劣化することが少なくなったので、貯蔵期間を長く取ることができるようになったという事も大きく影響している。
今年も三月二十日に「酒蔵開放」を予定しているが、その際には新酒と古酒の両方を試飲していただけるようにするつもりなので、ぜひ両者の違いをきき較べて欲しい。
古酒の話が出たちょうど良い機会なので一つの提案であるが、日本酒の新しい楽しみ方として、酒を買ってきて家庭で熟成させてどのように変化していくかを見る。こんな楽しみ方もいかがだろうか。土室があればその中に、冷蔵庫に余裕があれば冷蔵庫にでも、一年間程度保存しておいて呑み較べてみるとかなり違いがあるのが分かって楽しいものである。ちょうどワインがフランスやドイツで家庭で長く貯蔵されている様にである。
貯蔵には「きもと純米」や「山廃原酒」などの「きもと」系の酒が良いようである。特に牧水「極」などは非常に面白いと思う。ただし、瓶詰めをしてしまった酒は、変化が早いし、保存状況にも左右されるので、メーカーとしては品質は保証できないので、その点だけはご容赦願いたい。
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