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皆造(かいぞう)

1995年4月


酒の寒造りも三月に入ると、仕込みは終わりとなる。どうころばしの後、約一ヶ月後に最後のしぼりが終わると皆造(かいぞう)となる。

皆造とは酒造業者の業者用語である。聞き慣れない言葉だが税法上の言葉にもなっている。全部の搾りが終わった時点で、税務署はその年の酒造りを総括する検査を行う。その総括のことを皆造という。新酒を搾った時点で仕込みの一本毎に検査するが、その全体をも検査し、その年度の酒造成績として集計するのである。

十年くらい前までは、皆造検査の当日には税務署員が多数来社し、酒税関係帳簿、製造中の諸帳簿を克明に検査した。何十石もの大きさの新酒のタンク一本一本を、タンクの中の一リットルに至るまで、移動の記録を検討し、そして現物の数量やアルコール分、日本酒度等を検査をしたのである。

税務署がそうした事務を行ったのが検査室である(検査室については以前 「御園竹便りNo.3」の中でふれた)。検査室の隣には分析室があり、そこで酒の成分を税務署員立ち会いの下で分析した。勿論その結果は当社の帳簿に記載したが、それと同じものが税務署の帳簿にも保管されている。同じものが当社の検査室の中にある検査箱というケースの中に保管された。検査箱は書類が入れられた後に、税務署員以外は開けられぬ様にしっかり封印され、その上には係員の印が押された。

検査箱1 検査箱2【写真:検査箱】

その様なことも徐々に緩やかになってきた。今後は規制緩和により、さらに合理的になる事と思う。しかし酒税に対するこの厳しさは、徳川時代からの歴史の遺産であり、明治以降になっても、酒税が国税の半分以上も占める時代の必然的な行政方針であったのであろう。同じ税金の中の間接税でも、後でできた物品税や消費税と一線を画している。

最初私は酒類業者に対する当局の対応があまりにも厳しいので、犯罪者扱いにされているように感じていた。酒税法上だけでは感じられないこの対応の原点を調べてみると、「国税犯則法」という法律と酒税法とカップリングしてその様な事になって来たことがわかった。「国税犯則法」は脱税者を罰する国税の法律なのだ。

閑話休題、三月半ば過ぎると当社を含め大多数のメーカーの皆造が近い。今年も当社では、例年通りの立派な酒が出来上がった。しかしタンク一本毎に詳細に検討すると、米の産地や収穫時期や品種の相違等により、また仕込み中の外気温や品温の上り下りにより、微妙な違いがある。これからはそれを一年中一定の「御園竹」の味として出荷するという大事な仕事が残っている。それをするのが調合技術である。何本もの酒を少しずつ混和して一定の味とする事は高度の技術を要する。一本一本のお酒の相違を見抜くことは、日本酒度計や酒精計のような分析器具等ではできない。それを見抜くのは人間の口である。舌を使ってそれが決められるわけである。私はそれをアルコール計とか甘味計とかいう計器と同じに考えて、ベロメーターと呼んでいる。

酒造家はしっかりしたベロメータの持ち主が必要である。最新のガスクロマトグラフィーの様な分析器具でなく、最終的にはベロメーターによって一定の味が作られる。

斯く調合された我が「御園竹」は、次に貯蔵の第一段階である火入れ(pasteurization)に移行するのである。

 

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