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新しい味

1999年4月


三月二十一日に酒蔵開放を行った。初めての試みであり、天候も悪かっただけにどうなるかと不安であったが、嬉しいことに四百名を越す大勢の来場者があった。皆様の口利きの賜と感謝する次第です。(酒蔵開放の様子はこちらをご覧ください)

酒蔵開放をして良かったと思うのは、来場した皆様に楽しんでいただけただけではなく、我々主催者側にも大きなメリットがあったことである。社員全員が消費者に接した結果、普段では聞くことのできない消費者の生の声を、社員全員がそれぞれの立場で受け止めることができたのだ。

営業マンでさえ消費者の生の声を聞く機会は少ない。僅かに試飲会などで聞くことができるだけである。ましてや工場の者そして杜氏を始めとする製造の者は消費者に接する機会はほとんど無かった。それが来場された消費者一人一人に説明し、話をお聞きすることで、今まで気づかなかった様々なことが社員一人一人の中に浮かんできた。これがすぐに形になるものではないと思うが、しばらくして何かに活かせるようになって初めて酒蔵開放が成功したといえるのではないかと思っている。

酒蔵開放のきき酒コーナーで特に評判の良かった酒が二種類ある。どちらも今までとはちょっとタイプの違う酒である。一つは熟成酒(古酒)。この酒は山廃原酒を生酒のまま熟せさせたもので、一年しか経っていないが琥珀色に色づき、甘みが増してトロリとした深い味わいの酒である。もう一つが非常に酸の強い酒。これは今年の新酒であるが、山廃酒母四段という製法で作り、普通の酒の倍以上の酸を含んでいる純米酒である。

どちらの酒もお客様の反応や如何にと、おそるおそる出した酒であるが、評判が上々でほっとしている。これらの酒が受けたということは、消費者の好みが多様化していることの現れであろう。そしてワインが日本人の間に浸透してきたことも大きく影響していると思う。じっくりと熟成させた酒の旨味、また料理を引き立てる酸の味、両者はそれぞれ良いワインに通じる風味を持っている。

とは言え、ワインと同じような日本酒を造りたかった訳ではない。消費者の好みが多様化するのに合わせて、いろいろな酒を造ってみたうちのいくつかがワインに通じるものがあった、ということである。逆に考えて、これらの二種類の酒がどちらも、日本酒古来の製法「きもと・山廃造り」によるものであるということは、日本酒の秘められた味、日本酒の奥深さを物語っているのではないだろうか。

しかしどちらの酒も、晩酌に毎日呑む酒ではないであろう。やはり晩酌には今まで通りの酒が最も適している。我々は今までの酒の味は頑なに守り続けるつもりである。しかし、消費者の好みの多様化に応じた新しい酒も、これからも挑戦していくつもりである。

ここで紹介した二種類の酒は、今後の熟成期間(熟成酒はあと二年、酸の強い酒は半年)を経てお目見えする予定である。どうかその時を楽しみにしていただきたい。

最後になるが、今年の造りも終わり、無事「皆造」となった。きき酒をしていただいた方はご存じの通り、今年の酒も皆良い出来である。今年も今まで通りの旨い酒を(そして新しい味も少し)ご提供できるであろうことを自信を持ってご報告する次第である。

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