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酒の熟成

1999年9月


今年は、例年より夏の気温が高かった様に思う。実際我が社の蔵の室温が昨年より若干高くなっているようである。この便りの中でも何回か話題にしたが、当社の貯蔵庫は土蔵作りで外気の影響をなるべく受けないように作られている。真夏でも最高温度が二十二℃前後というのが例年のことである。それが今年は一番高い蔵では二十三℃近くまで上がった。

我々が貯蔵庫の温度を気にするのは、それによって貯蔵している酒の熟成の進み具合が変わってくるからである。酒の品温が高くなるほど酒の熟成は進む。酒が早く熟成しても困るし、その反対に熟成が遅れているのも困る。何事もほどほどが一番好いのだが、こればかりは天候の具合でどうしようもない。

この、酒の熟成具合を確認するために、「呑切(のみきり)」という行事をしている。これも何回か話題にしたことがあった。呑切は、タンク一本一本の酒を出して、酒に異常はないかなどを確認する作業である。我が社では毎年二回、七月下旬と八月下旬に呑切をを行っている。

大体蔵の中の温度は梅雨明けから徐々に高くなっていく。七月に行われる「初呑切(はつのみきり)」は、これから酒の品温が上がり、熟成が本格的に進行する前に、異常のある酒は無いかを確認するのが目的である。この時点で熟成が進みすぎている酒がある場合は、その酒をなるべく早く出荷するように出荷の時期を検討する。ここ二年ほどは、春先に火入れを行った後に、タンクを水で冷やして温度を下げる処理を行っている。その結果今年の七月下旬の時点では、「若い」(熟成が進んでいない)酒が多かった。

八月下旬の「二番呑切」が行われるのは、ちょうど酒の品温が一番高くなった頃である。この時点での酒の熟成具合をもう一度確認して、本格的な日本酒のシーズンになってから、どういう順番で出荷していくかの目安をつけることにしている。幸いなことに、七月下旬で「若い」と感じていた酒も、熟成が進み、これであれば、秋から冬にかけて程よく熟成した酒を出荷できると一安心した次第である。

酒の熟成の進み具合は、温度だけで決まるものではない。酒の作り方や、米の精白でもかなり影響を受けるようである。精白の良い米を使って丁寧に作った酒ほど熟成が遅いようである。当社では二十数年前から大吟醸を長期貯蔵している。先ごろ二十年前の大吟醸の封を切ってみたが、これが二十年経っているのか、と驚くほど熟成が進んでいなかった。やはり大吟醸ともなるとこんなに違うのかと感心した。

また、これは当社の経験則であるが、「山廃」「きもと」の酒は熟成がゆっくりしているようである。理由はわからないが、やはり長時間かけて醗酵するからでは無いかと思っている。

ここ数年は、普通酒であっても、精白を良くし、味をしっかりさせるために山廃の酒の比率を増やしているためであろうか、御園竹の熟成が若干ゆっくり目である。これは我々にとってはうれしいことである。それだけ一年を通して同じ状態の酒を提供できることになるからである。酒の消費が落ち込んでいる時期だからこそ、いつも良い状態の酒を呑んでもらえるよう、これからも努力していきたいと考えている。

 

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