開催の動機
酒蔵開放を始めた一番の動機は、新商品を出してもだれも知らない、毎年出来上がる製品の味は異なることも、季節によってお酒の味わいが異なる(季節商品の存在)ことも一般の消費者にはほとんど伝わっていない、という状況を改善したかったからです。
当時は(今も?)当社は普通酒主体の蔵で、看板商品「御園竹」は地元でのシェアは非常に高い商品でした。当社としても、いつ飲んでも味が変わらないよう、いつも飲み続けられるよう、なるべく味が均一になるように苦心していました。真夏でも燗酒しか飲まないという人が多かった時代のことです。
そこで、いろいろなお酒の楽しさを知っていただくために、新酒がでそろった頃、消費者に酒蔵まで来ていただき、いろいろな新酒などを味わっていただいてはどうか、と企画したのが酒蔵開放の始まりです。
初めて開催してみて
1999年の第一回の開催には初めての試みにもかかわらず450名ほどのお客様がいらっしゃいました。
実は1999年は広口カメに入れた甘口の純米酒を1月1日にお届けするという主賓の発売をした年で、その商品をお客様がかなり気に入ってくださった結果、新しい味わいのお酒に興味を持ってくれた方々が結構いらっしゃったおかげでもあります。
その時は来場者には高評価でしたが、中にはやはり「タダで酒がこれだけ飲めるんだから有り難い」という方も結構いらっしゃいました。
でも、私と同年代の人に「確かに大吟醸とかいろんな酒も旨いけれど、俺は御園竹があれば十分だ」と言われた時には、御園竹のファンということで泣けるほど嬉しかったのですが、目標は遙か彼方にあることも実感させられました。逆に是が非でも続けてやるぞという気にもなる経験でした。
その後の推移
その後の来場者数は毎年700名から800名程度でしたが、2005年に一気に1,200名に増えました。
これは十二六の発売開始の翌年のことでした。この頃から県外からのお客様も増えてきたような気がします。その後東日本大震災の年を挟み2012年からは1,500名越え、最高の年は1,700名以上の来場者がありました。
長年続けていると、来場者数の多寡に一喜一憂し、県外からの来場者が増えたことに喜び、とだんだん初心を忘れていることに気がつきました。2015年頃でしょうか。それからは何とか地元に軸足を置こうといろいろ試行錯誤していたところでコロナ禍です。
今改めて酒蔵開放を始めた頃の事を思い出すと、私は異様に「体験」にこだわっていた記憶(記録)があります。初期の頃は
実演:酒林造りの実演(出来上がったものは抽選で進呈)、菰樽の菰巻き、木桶造り
体験:暖気樽入れ、一升瓶の風呂敷包み、一升瓶の紙包装
などを企画していました。せっかく来ていただいたのだから、普段はできない体験をして帰ってほしいという思いからです。これに関しては是非復活させたいと思います。
開催日に関して
コロナ禍前は毎年春分の日に開催していました。
1990年代の頃の当社では、新潟からの泊まり込みの季節労働者による酒造りを行っていました。毎年11月12日に新潟から杜氏一行が入蔵し酒造りを始め、四月の上旬には酒造りを終えて新潟へと帰って行きました。そのため三月中旬には改造(お酒をすべて搾り終えること)となり、その後の作業である、濾過、調合、火入れを行い、後片付けをして造りのシーズンが終了になる、というというのが大まかな日程です。
丁度三月二十日前後は酒を搾った後の作業の直前であり、区切りが良い頃でした。開催日を二十日前後の土曜日曜とも考えましたが、酒造りは週単位ではなく日単位で進行していくため、動くことの無い春分の日を開催日とすることにしたのです。
最初はえいやっ、と決めた開催日ですが思いの外、酒蔵開放というイベントを開催するには適した日だったことが後々になってわかりました。「暑さ寒さは彼岸まで」と良く言われますが当地はまだまだ寒さが残る時期であるため、その年にできた新酒は全て加熱処理していないものが用意できますし、つまみとして大評判の野沢菜漬けも、だんだん酸っぱくはなり始めてはいますが食べ頃です。
開始後数年経って販売を始めた十二六(どぶろく)もあたためられて噴きこぼれたり、急激に味が変わってしまうこともありません。また、当社が蔵開放を始めて数年後には同様のイベントを開催する蔵が増えてきましたが、ほとんどが四月開催であるため、当社の酒蔵開放が毎年一番早いのでお客様が多くいらっしゃった、というアドバンテージもあったようです。
余談ですが、動くことの無い、と書きましたが実際には春分の日は二十日と二十一日を行ったり来たりします。私の知る限りでは、二十日の年が二年続き、そのあと二十一日の年が二年。閏年には再び二十日に戻るのが大まかな動きです。
そのため、酒蔵開放を始めた頃は確定した日付で開催されると勘違いした方も結構いらっしゃったようで、前日に開催されてしまったことを伝えられてがっかりされる方も多かったことを記憶しています。
さらに余談ですが、春分の日は私の計算では2026年からは二十日が三年、二十一日が一年、といったサイクルで動きますので余計間違えやすくなりそうです。今後酒蔵開放の開催を春分の日に戻すかどうかは検討の余地がありそうです。