[解説] 酒林ができるまで
酒林は、青々とした杉の葉を使って作ります。杉は常緑樹なので、いつでも青い葉が手に入ります。当社では、酒林を作る数日前(十二月初旬)に、杉の葉 (といっても枝ごとですが)を取りに行きます。
昔は自社(社長の所有)の山の杉を使っていましたが、梯子をかけて手が届く範囲の枝を取り尽くしてしまいましたので、比較的最近に杉を植えた方の山の杉の下枝を取らせていただいています。
梯子をかけて、枝を根本から鉈で落とし、落とした枝の中から、みずみずしい青色の葉がついたものを選んで、酒林を作る材料とします。
【杉の枝取り】
酒林は、青々とした杉の葉を使って作ります。杉は常緑樹なので、いつでも青い葉が手に入ります。当社では、酒林を作る数日前(十二月初旬)に、杉の葉 (といっても枝ごとですが)を取りに行きます。
昔は自社(社長の所有)の山の杉を使っていましたが、梯子をかけて手が届く範囲の枝を取り尽くしてしまいましたので、比較的最近に杉を植えた方の山の杉の下枝を取らせていただいています。
梯子をかけて、枝を根本から鉈で落とし、落とした枝の中から、みずみずしい青色の葉がついたものを選んで、酒林を作る材料とします。
【杉の葉を束ねる】
酒林を作る時は、杉の小枝を何本かまとめて小さな束を作り、その束を丸く組み合わせて作ります。
作業に必要なものは、杉の葉の他は、三十cm程度の針金百本程度、そしてはさみです。はさみは、剪定ばさみと、切り花をするときのはさみの二種類があった方がよいでしょう。
枝から杉の葉(小枝)を落として、小さな束を作ります。量はだいたい両手でつかんで持てる量程度でしょうか。
束ねた小枝は針金でしっかりと結わえます。針金の一方の端で、束を二~三回巻くようにします。針金のもう一方の端は、玉にしていくときに心棒に結わえますので、その分の余裕を充分に取っておく必要があります。
針金で束ねたら、束ねた根本の部分を切りそろえ、先端の部分も飛び出した枝が無いように、簡単に切りそろえます。玉を作ってからも切りそろえますので、あまり神経質になる必要は無いようです。
用意する杉の葉の束の数は、酒林の大きさにもよりますので一概には言えませんが、当社の酒林では百束程度は必要となります。余らせてもしょうがないので、最初に大体の数を作っておき、足りなくなったら作り足すようにしています。
【玉を作る1】
いよいよ酒林の丸い玉を作っていきます。
酒林の心棒として、鉄の棒など、酒林の重量を支えられる物を用意します。この棒の片方の端は、酒林をつるすために曲げてあります。もう一方も少々曲げてあって、杉の葉の束を最初につるすことが出来るようになっています。当社では、ブラシの柄を使っています。
まず、先ほど作った杉の葉の束を四~五束まとめて、心棒の下端の曲げてある部分に引っかけます。重量がかかりますので、針金をしっかりと巻きます。
その上に一束ずつ杉の葉を載せていきます。最初のうちは、束ねた根本が心棒につく程度にきっちりと針金を巻き付けます。杉の葉の束は、丸く均等に乗せていきます。針金は心棒に二~三回巻き付ける程度で充分です。
一回り乗せ終わったら、上から手で押さえ付けるようにして、間があかないようにします。
上に乗せるにしたがい、玉になるように、心棒と束の根本は少しずつ離して乗せていきます。なれないとこの加減が分からず、平べったい玉や縦に長い玉ができてしまいますので、出来上がりを想像しながらだんだんに広げていきます。
ある程度束を結びつけたら、せん定ばさみを使って、杉の葉を刈り込みます。写真では、大体三分の一程度出来たところで刈り込んでいます。酒林は下から見上げることが多いので、この当たりが一番目に着く部分です。できるだけきれいに仕上げます。酒林が出来上がってからもう一度刈り込みますので、それほど神経質になることもないでしょう。
【玉を作る2】
当社では結構大きな酒林をつるしますので、下三分の一程度ができたところで、作業がしやすいようにつるす位置を低くして作業を進めます。
ある程度杉の束を結びつけたところで、せん定ばさみで飛び出した部分を落とします。酒林が大きくなってくると、少し離れたところから眺めてみて、バランスを確認しながら作業を進めます。
玉の下の部分では、心棒と束の根本はそれほど離れていません。中央部分に行くにしたがって、針金を長くして心棒から束を離すようにししていきます。
だんだん酒林らしくなってきました。ときどき上から押さえつけるようにして、隙間があかないようにしてやることも必要です。
大体三分の二程度出来上がったところで、しめ縄を固定するための針金を、心棒に結びつけて、外にのばしておきます。これを忘れると、あとで大変です。針金を外に出す位置は、下の方から良く見て、見栄えの良い部分が正面となるようにします。
【仕上げ】
いよいよ完成まであとわずかとなってきました。玉の上の方は、だんだん針金を短くして丸みを出していきます。
杉の束を結びつけ終わったら、上から押さえつけて形を整えてから、せん定ばさみで丸く形を整えます。形を整える時は、横から見るだけでなく、下から見たときも形良く見える様に気を付けます。
朝から始めた仕事も終わりに近づくと、冬の夕暮れが近づいて来ます。形を整え終わったら、今日の仕事は終わりです。あとは、新酒が出来た日に、会社の門に酒林を吊るすだけです。
酒林を掛けていると、通りかかった近所の人が声を掛けます。やはり酒林は酒屋のシンボルであり、新酒が出来た印でもあるので、近所の人も気になるのでしょう。
【当社門に下がった酒林】
「酒は飲みたし 銭はなし 酒の林を見て通る」酒林(さかばやし)は、杉の葉を束ねて丸く刈り込んで作られたもので、酒に関係する商売の看板です。毎年新酒のできる年末になると青い杉の葉で作ったさかばやしを軒下につるしたものです。杉の葉も、つるしたばかりの時は目も覚めるような緑ですが、時間がたつとだんだんと茶色くなってきます。これがまた緑になると、新しい酒が出来たことが遠目にも分かります。
杉は常緑樹であり一年中青い葉が得られる、杉には殺菌作用があるなどの理由から、昔から造り酒屋では杉を便利に使ってきました。酒を貯蔵する桶や樽は、杉で作られていました。
その他でも例えば、酒米を浸すときにも使っていました。米を浸すときには、桶の中に米を入れ、水を張って洗います。この桶の下部には水を抜くための穴があり、ここには木の栓がしてあります。桶の内側からこの穴を塞ぐように杉の葉を重ねたものを当ててから米を入れます。水を抜くときには、木の栓を抜くと、ちょうど杉の葉がいわば濾紙の役目をして、水だけが抜けて米は外にこぼれ出ることはありません。
今は便利な道具や装置がありますので、杉の出番は少なくなってきました。タンクなどもホウロウに変わりました。しかし酒林だけは、造り酒屋、町の酒屋、飲み屋などのシンボルとして、これからも生き続けるでしょう。